美と健康の大きな味方・納豆。前回は、夜に食べる納豆についてお伝えしました。
さて、今回は「朝納豆」のお話です。
私はこれまで「夜納豆」を続けていましたが、少し前から「朝納豆」に変更しました。
どうして朝納豆に変えたのか?
それは、朝に食べた方が、腸に良い影響を与えてくれるからです。
腸に良い影響があるということは、美容はもちろん、便秘改善や免疫強化など、健康面でもメリットを期待できるということ。
さぁ。
朝納豆は、どうして腸に良いのでしょうか?
腸内細菌叢に良い影響を与える!「水溶性食物繊維」
納豆には素晴らしい栄養がたくさん含まれていますが、今回のコラムで注目したいのは「水溶性食物繊維」です。
食物繊維には二種類(水溶性・不溶性)ありますが、その特徴をひとことでいうと
・水溶性食物繊維 →腸内細菌のエサになる・血糖値の上昇抑制を助ける
・不溶性食物繊維 →ウンチの量を増やす・腸の蠕動運動促進
といえます。
どちらも腸に良い影響を与えてくれる必要な栄養素ですが、こと「腸内環境を良くして美と健康に役立てる」ためには、水溶性食物繊維が良いことがわかっています。(詳しく知りたい方はこちらをご覧ください)しかも、現代人に不足していると言われているのも水溶性食物繊維ですので、意識して積極的に摂りたい栄養素。
さて「食物繊維」と聞くと、「ゴボウ」や「キノコ」などを想像する人も多いかもしれませんが、実は納豆には、これらの食材よりも多く食物繊維が含まれているだけでなく、二種類の食物繊維がバランスよく含まれているのです。
納豆1パック(50 g)と、他の食品(可食部50 g)との比較
えのきたけ(生) 1.95g(水溶性0.2g /不溶性1.75g)
ぶなしめじ(生) 1.75g(水溶性0.1g /不溶性1.25g)
ごぼう(生) 2.85g(水溶性1.15g /不溶性1.7g)
さつま芋(皮なし焼き) 1.75g(水溶性0.55g /不溶性1.2g)
糸引き納豆 3.35g(水溶性1.15g /不溶性2.2g)
参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
また、納豆は他の大豆製品と比較しても優秀なんですよ〜。
可食部100gあたりの食物繊維量 大豆製品での比較
調製豆乳 0.3g(水溶性0.2g /不溶性0.1g)
木綿豆腐 0.4g(水溶性0.1g /不溶性0.3g)
絹ごし豆腐 0.3g(水溶性0.1g /不溶性0.3g)
ひきわり納豆 5.9g(水溶性2.0g /不溶性3.9g)
糸引き納豆 6.7g(水溶性2.3g /不溶性4.4g)
参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
こうしてみると、納豆がいかに食物繊維豊富で、水溶性食物繊維もしっかりと摂れる食品か分かりますよね〜!
朝に食べると、最も腸内環境が改善!?
納豆は、食物繊維だけでなく他の栄養も豊富ですから、基本的にはいつ食べても良いと思います。ですが、こと「腸の改善」において最も効率良い時間を目指すのであれば、答えは「朝」です。
その根拠は、早稲田大学が水溶性食物繊維「イヌリン」を使ったマウスの実験結果です。
イヌリンの摂食時刻によって腸内細菌叢への影響はどう異なるかを調べた結果、「長い絶食明けにイヌリンを摂取すると、朝食でも夕食でも同じように腸内環境が良くなる」ということがわかりました。(研究について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください)
では、「お昼を抜いて夕食後でも良いのでは?」と思うかもしれませんが、私はお勧めしません。なぜなら「体内時計のリセット」の観点から考えると、夕食前に長い絶食時間を持つことは、美の大敵だからです。しっかり理解したい方は、以前にご紹介したこちらのコラムをご覧ください。
さっと進みたい方のために、ここでは要点だけおさらいしましょう。
人間には二種類の体内時計(脳の中枢時計と、脳以外にある末梢時計)があり、24時間より少し長い時間を刻んでいます。つまり人間の体内時計だけで生活していくと、地球の自転(24時間)と毎日少しずつずれていってしまい、いずれ昼夜逆転することになります。それだけではありません。体内時計がずれてしまうことは、肥満やがんなどの生活習慣病につながることがわかっています。そこで毎朝、自分の体内時計を地球に合わせてリセットする必要があるのですが、二種類の体内時計はそれぞれリセット法が異なります。
・脳にある体内時計(中枢時計) →朝日でリセット
・脳以外にある全身の体内時計(末梢時計) →朝食でリセット
つまり中枢時計と末梢時計、二種類の体内時計を地球に合わせてしっかりリセットするためには、「朝日+朝食」が必要になってきます。
ただし、この「朝食」にも条件があるのです。
英語で朝食のことを「breakfast」といいますよね。つまり「朝食(breakfast)」とは、「長い絶食(fast)を破る(break)」ことをいいます。前夜からの長い絶食明けに朝食を取ることによって、末梢時計が「地球に朝がきた」ことを知り、リセットされるのです。したがって前夜の食事時間も大切。できれば寝る3時間前には食べ終えて、翌朝まで長い絶食時間を作りたいですね。
こうして昨夜からの長い絶食時間を経て起床し、朝日を浴びてから1時間以内に朝食を摂ると、心も体も、もちろんお肌も絶好調!美と健康の基本になるのです。
では、話を戻しましょう。
「長い絶食」を夕食前に作ってしまうと、どうなるでしょうか?
例えば「朝から何も食べる気がしない」「朝は食べたけど、昼を抜いた」などで、夕食前に長い絶食時間があり、その状態で夜に食べてしまうと、朝食の時と同じように体内時計(末梢時計)がリセットされてしまうのです。その結果、体内時計は後ろにずれてしまうことに。体内時計がずれてしまうということは、肥満や生活習慣病など、さまざまな不調につながるとお伝えしましたよね。美と健康の大敵なのです。
では、「長い絶食明けの食事」は、いつが良いのでしょう?
そうです。答えは自ずと「朝食だけ」になるのです。
マニアックな説明も入りましたが、とても大切なこと。ご理解いただけたら嬉しいです。
長い絶食明けに水溶性食物繊維が良いわけ
ではなぜ、長い絶食明けに水溶性食物繊維のイヌリンを摂取すると、腸内細菌叢の構成が大きく変化したのでしょう?日本時間栄養学会「時間栄養学研究の最前線(2021 Vol.1 No.1)」の中で、早稲田大学先進理工学部 佐々木裕之助教授の記された考察を拝見し、私なりに平たく説明すると、こうなります。
「長い絶食明けで朝ごはんを食べると胃と腸が一気に動き始め、腸の蠕動運動が促進されます。腸が活発に動くことによって、腸内では乳酸菌などの善玉菌が増えるのですが、この時に腸内細菌の「エサ」であるイヌリンなどの水溶性食物繊維を朝ごはんで摂っていると、さらに善玉菌が増えて腸内環境が改善する」
と考察できるのです。要するに、研究から見えてくるのは、「朝食で水溶性食物繊維を摂ることは、腸内環境をよくしてくれる最高のタイミング」ということ。
おまけでもう一つマニアックな話を付け加えるなら、水溶性食物繊維以外でも、「レジスタントプロテイン」が含まれている大豆タンパク質でも同様の検証が行われていて、こちらでも朝食の方が腸内環境を良くすることがわかっています。
※レジスタントプロテイン
胃で消化されにくい、難消化性(レジスタント)のタンパク質(プロテイン)のこと。レジスタントプロテインは小腸で吸収されず大腸に到達し、さまざまな健康効果を発揮することがわかっています。
つまり、
「水溶性食物繊維とレジスタントプロテインを含む納豆を朝に食べることは、1日の中で最高のタイミングだ!」
と、私は思うのです!
というわけで、ご紹介してきたこれらの研究論文を読んで以来、 私は納豆を夜から朝に変更しました。
かなりマニアックな話もしましたが、科学に基づいて私が続けている美容法。
ご興味のある方は是非、「朝納豆」を実践してみてくださいね。
【参考文献】
日本食品標準成分表2020年版(八訂)
Hoving, L. R. et al. The prebiotic inulin modulates gut microbiota but does not ameliorate atherosclerosis in hypercholesterolemic apoe*3-leiden.Cetp mice. Scientific reports 8, 16515, doi:10.1038/s41598-018-34970-y (2018).
佐々木裕之「腸内細菌叢の時間栄養学的研究」日本時間栄養学会「時間栄養学研究の最前線(2021 Vol.1 No.1)」
Tamura, K., Sasaki, H., Shiga, K., Miyakawa, H. & Shibata, S. (2019) The Timing Effects of Soy Protein Intake on Mice Gut Microbiota. Nutrients 12.
大塚邦明(2012)『体内時計の謎に迫る』技術評論社
柴田重信 小田裕昭 加藤秀夫 堀江修一 榛葉繁紀 香川靖雄(2009)『時間栄養学』女子栄養大学出版部
古谷彰子著 柴田重信監修(2017)『食べる時間を変えれば健康になる』ディスカヴァ-・トゥエンティワン
田原優(2019)『体を整えるすごい時間割』大和書房
産業技術総合研究所(2007)『きちんとわかる時計遺伝子』白日社
日本時間生物学会誌「時間生物学」Vol.19,No.1(2013)羽鳥恵『外界刺激による概日時計の調節機構』http://chronobiology.jp/journal/JSC2013-1-003.pdf 2022.8.19.アクセス